記憶の桜を解凍するために.山種美術館へ(9分)/放送内容書き起こし
<落合陽一録 第6回> ウィズコロナ下で記憶の桜に匂いがない.そんな今年の桜を追憶して味わうために山種美術館へ
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2020/06/19 落合陽一公式note 記憶にない桜を補う何かを探して / 山種美術館「桜 さくら SAKURA 2020」
“ぜひ,読者の方々,記憶の桜を解凍しに夏の山種美術館に行って欲しい.自分は日本画のテクスチャーを眺めながら,様々な感覚を味わうのが好きだし,日本画を目でなぞる触覚を感じる時間は何事にも代えられない知的で甘美な時間だ.さて今回もマガジン連載では展示を見ながら歩く.”
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BGM
放送内容書き起こし
0:00 日本画の面白さ
円山公園の桜は好きですね。この辺は、京都の桜を見に行く好きですけど。でも、千鳥ヶ淵の桜もわりかし好きですね。
ライティングによってね、見え方が変わるのが日本画は絶妙だよねと思いつつ。実に工芸的でどういうステップで作ったのかを考えると、いや1個作るのにどのくらいかかるんだろうなと思いつつね。桜の花びらが全部こっち向きに取られてる結構日本的なモチーフで、かつ松のモチーフの方もテクスチャーはなくサラッと書いてあるくせに、髪の毛に砂子が散っていたりとか、あと、金箔貼ってたりだとか、そういう技巧的に、目が面白い。しかも細かい細部が書き込まれてるくせに、一個一個への立体感はなく平面的に収まってるんだけど、絵自体が極めて立体的なんだよね。この絶妙なバランスがいいと僕は思うんですけどね。
1:25 菱田春草
『菱田春草(ひしだしゅんそう)は、亡くなって109年が経過しています』。でもそっか、20歳だもんね。ハタチぐらいの時に描く絵っていうのは、また絶妙だが。この着物の美しさは絶妙だが、皆さんのちゃんと注目したいといけないのは、ここにいる猫だか虎だか犬だか分からない分からない生き物なんですけど。こいつはどこから来た奴なんですかね?こいつ、かわいいな、ずいぶん。美人画の上に乗っている一個一個のテクスチャーと細いラインが絶妙だよね。しかもこのテキスタイルの中に入っている、この四角いドットの集まりが、全部同じ方向向いてるんだよ。すごく絵画的なんですよね。そのくせ、こっちは流線的だし、こっちは絵画的。ここだけ切り出したみたいな。絶妙ですよね、なるほど。
2:22 清姫―桜の花びらはスクリーン
清姫。清姫が桜になるんでしたっけ。ああ、埋められたところから桜が生えるんだ!ふたり(?)が埋められたところから、桜が生えた。やっぱりね、こっちは正面画を向いているような絵なんだが…。ああ、47歳。47歳感はあるね。
昔、桜の作品作ったことがあるんですけど、僕にとってね、桜の花びらってすごいスクリーンっぽいんですよ。桜のね、反射がね、反射とか桜が光に当たった時の光のね、ふんわりする感じとか、あと桜をレンズで写した時のピント、ピンボケのところにある、桜の絶妙な拡散具合とか。そういうのをいつもね、考えながら桜見てるんだけど。
でも例えばこの描画も、桜のピンに合ってないところはふわっとエアブラシみたいに描いているし、逆にピンが合っているところはすごいシャープに桜描いているし、そうじゃないところはハレーションを起こした、光がふわっとなるところ。その桜が、枝の奥にある時と枝の前にある時で、枝と一瞬溶けちゃう瞬間みたいなのがあるんだけど。それがね、絶妙に描き込まれてるんだよね。だからピント面があるところと、ピント面がないところと、光がハレーションを起こしてるところと。「はぁ、なるほど。そんなふうに世界が見えるんですね」と思いながら、桜見てるんだけど。
僕にとっては、だからそういう「ピントがあるところ」「光が当たっているところ」「反射が起こっているところ」あと「桜1枚1枚がちょっと湿ってるところ」から「だんだん傷んできて色味が変わってくるところ」まで、そんなふうに桜を見て、捕えているんだけど。
4:00 アイコン化し繰り返される桜
光学的な性質が気になるんですよね、いつも。光の反射によって全然花びらが形が変わって見える、っていうか。見た目が変わって見えるっていいよね。デカいなぁ…こいつ…。この桜、ずいぶん写実的なモチーフの上に塗られてるんだなぁ…。まぁ確かに。そのくせして、あの竹どもは随分、パキッとしてるねー、君たちは。
でも、日本画のね、桜がアイコン化していく――何か特定の桜、貼りまくっているような感じは絶妙だと思うんだけど。でも、こう描かれるとなんか納得するぐらいの繰り返しパターンがあって、これがね、すげーいいよね。
4:58 奥入瀬
はい、奥入瀬でございます。奥入瀬の何がいいって、金泥の使い方の絶妙っていう。夕方なのかな、向こうから差してくる光が金泥で反射して絶妙な位置に光ってんだよねー。『嵐山の春』。「これって、切り出した木材を運んでいる様子なんですか?」うんは、確かに。確かに、ビビッドだけど、ピント面が合ってないところはふんわりしてるし、でも夜桜っぽいふんわり感が後ろにね、溶けているのはなかなかいいけど。やっぱり、写真成立以降の作品ってちょっと違うよなぁ。なるほどねー、いや絶妙。
これは絶妙なトリミングだよね。これは桜がふんわりした光のハレーション気味な感じが絶妙なんだけど、地面に降り積もっているあの粒粒感もいいよね。
6:20 徴用桜
さて、徴用桜。すげえ肉厚感。これは何度も何度も重ねて塗ってんだろうなぁ。まあライティングはね、下から見るとかめっちゃ金色に見るんだけど、真っ正面から見ると微妙に茜色っぽく見える。金箔が絶妙な味を出しておる。花びらのパワフルさにやられるっていう。
二村(?)というパイセン、88歳に。え、この人何歳まで生きてたの?101歳?はぁ、なるほど。やっぱり88歳にならないと、ここまでふわーんと描けないのかなぁ。わかんないけど。わかんないけど、これはこれでまた絶妙ですよ。絶妙な絵でございますのぅ。
樹幹がぼんやりと丸っこいのは、天然林の証、らしいよ。
8:00 美術展情報
というわけで、美術館を巡らせていただきましたが、東京都渋谷区山種美術館で7月18日土曜日から9月13日日曜日まで『桜さくら SAKURA 2020――美術館でお花見!――』展が開催されています。この美術館で見るとですね、今年いけなかった桜を見出すことができると思うので、見た方はですね、いらしてください。
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