食の安全保障/放送内容要約

<JFNラジオ「FUTURES 落合陽一RADIO PIXIE DUST」> 先日、農林水産省より2019年度の食料自給率が発表された。前年度から1ポイント上昇したものの38%(カロリーベース)と先進国で最低レベルで推移している。2030年度までに45%を目指しているが、10年で7ポイント改善するのはなかなか厳しそうだ。コロナウィルスが食の安全保障に与える影響を心配する声も上がっている。少子高齢化が進む社会で食糧自給率を上げるには?地産地消、ITによる自動化、農作物を売る以外のビジネスモデルの構築など様々考えられるが、政策による舵取りが不可欠だと語る。

放送内容

先進国で最低レベルの食糧自給率。自動化は高齢化には優しいが

人口が多いが国土面積が狭いことから考えると、日本は元々不利な状況にある。昭和40年代には73%あった自給率が下がり続けた背景には、工業化や都市化による農地面積の減少、農業従事者の減少がある。毎年起こる自然災害も農地・農業従事者に影響していると言われる。

最近のトレンドとして、トラクターや田植え機などの農作機械の工業化・情報化・自動化がある。だが、完全な自動化ではないし、設備投資に結構なお金(数千万円単位)がかかる。田畑の外側1~2周を人の手でやりその後自動で回すなど、人間の手を一回借りないと動かないものが多い。また収穫の際は夜露に濡れると作物がダメになったりするので、昼間に人の手が必要になる。とはいえ、一回やって放置できるシステムは、高齢者がテレビを見ながら耕すぐらいのノリはできるようにはなった。自動化によって一人当たりの耕せる面積が増えると、農家を止める人の分を維持するのには役立つだろう。自動化は高齢化には優しいが、自給率を上げるにはプラスαが必要だ。

アジアというひとつのサプライチェーンの中で食料自給率を上げるには

自然災害にも向かい合っていかないといけないのが現状の課題。最近ではコロナの影響もあり、食の安全保障を心配する声も。まずは自国民の食料の確保が重要だが、国土面積の狭い日本だけでは問題解決できない。日本だけで昭和40年代の食糧自給率に回復させることもがんばればできるとは思うが、アジアをひとつのサプライチェーンとして考えるのがよいだろう。国境線をまたいで食物供給がなされる必要がある。その観点で外交問題と食糧自給率の問題が同じところにあるので、外交がこれからも重要。

一方、他の国の国民の生活を維持するのに必要不可欠なものを日本は持っているか?電子部品はその一つと言える。例えば、スマートフォンは中国で作っているがセンサーは日本製。電子部品のサプライチェーンを見ても日本から始まっている。微小な受動部品や樹脂部品、センサーの集積テクノロジー、タッチスクリーン用の部品は日本は強い。だが農業に関しては、中国からの輸入に頼っている。ブランド品を作る試みもあるが、それだけでは自給率をカバーできない。とはいえ、国内の生産者を守る観点も必要なので、卵が先か鶏が先かの問題ではある。地域のサステーナビリティを保ち、なるべくデフレ化させないのも一つの手だ。キーワードは地産地消。少し高額でも地産地消が広がるように、内需を上げるにはどうしたらいいかを考える必要がある。コロナ禍で国境線を人がまたぎづらくなっているので、内需を強くするにはよいタイミングかもしれない。国内の生産者がなによりも重要。国内の生産者が作ったブランドの農作物を国内で積極的に消費していくことが、内需を高めるきっかけになる。

少子高齢化社会と農業。ITやAIの出番だが、現場は投資コストが課題

食の安全保障は重要な問題。一気には解決しないので、2030年~40年を見据えて、外交や一つのアジアを目指すサプライチェーンと言う視点を持って取り組む必要がある。その中で、少子高齢化社会が進んでいく。「ITやAIの出番か?」と言われれば、それはそうだろうが…。センサーネットワーク、スマート農業、アグリテック…。色んな言葉で言われているようなものは、僕も毎回出てくるたびに見本市で拝見したりお話をいただいて試してみたりする。少人化(人がある程度やれば人の数を減らせる)や省力化(始めだけやれば後はやってくれる)するためのテクノロジーは発達してきている。だが一長一短あり、最初に農業機械を買う投資コストが人間を雇う金額よりもずいぶん高い。田植え機やトラクターに数千万円を払える農家は稀だろうが、それでも入れていかなければいけないだろう。その中で人口が減って少人化していく中で徐々にスライドしていく必要があるので、助成金や補助を積極的に導入する必要がある。それをベースにして足元を固め付加価値を高め、色々な施策を同時に打っていかなければならない。ITやAIの出番と言うよりは、自然にIT・AIの状態になっていくのだと思う。

最先端含め、色々な農業関係者と交流がある。農機具を作っている方、農業を直接している方と話していると、農業は農業機械が高いと成り立たない、コスト的にシビアな業界だという。最近も農地を見に行った。IoTだテックだと考えてしまうが、実際の現場にとってはコスト性が悪い物が多過ぎる。先進企業が投資するようなAI・IoTの製品は、ブランド価値をそれによって高められたりそれを使ってマネタイズしていくのが見えているので多少高くてもいい。だが、多くの農家は家族経営がほとんどなのでそうはいかない。機械導入のハードルが高い。大企業ならば試作品を入れ、試作がうまく行けば大量に導入する、という方法が取れる。だがひとつの農家にひとつを入れて、それをすぐ大量に入れようとはならない。その農家と隣の農家は成形がまったく違うから。そういった課題はあるなか希望を持ってやっている農家も多いものの、高齢化は進んでいると現場で感じた。作っているエンジニアは30~40代と若くテンションが高いが、使っているのは60~70代。数千万円の機械を70歳で買ったとして、10年でそのコストをギリギリ回収できるか微妙。相続するには高額だし法人で持たせるのかなど、高齢化した農家では高額投資はなかなか難しい

テコ入れには政策による舵取りが不可欠

そういう状況があるので、農地の集約化が必須になってくる。集約化した農地をある程度のコストで耕せるよう機械で自動化する。そこに補助金や減税を出すなど積極的に支援して、自動化しない農地を減らしていく。そういうテコ入れをしない限り、外国人の労働の手を借りるなど今のシステムでやり続けるところが出てくるだろう。

別の視点として、家庭菜園など自分で食べる食料を確保する趣味も流行っている。また植物工場は電気代が肝なので、電気がある一定量生産できるようになりコストパフォーマンスが変わると一気に普及するだろう。家庭菜園や地産地消に向けて新しいビジネスを作っていくのも、農家の収入につながるだろう。つまり、「作物で稼ぐ」以外の方式を農業の周辺の技術やカルチャーで作っていければ、それはそれで意味があるだろう。いずれにせよ、農業は政策による舵取り(補助金)が大きく影響する。どのくらいの面積で、どのくらいの収穫量で、どのくらいの人を土地に呼び込んで、ということを考えると政策が大きいので、誰かがきちんと舵取りしてくれることを望んでいる。

落合さんは家庭菜園するなら何を育てたい?

家庭菜園や兼業農家に興味がなくはない。僕は3代東京だが、祖父の実家は農家。今も代々引き継いだ田んぼがあり、耕してもらっている。ブランド米を作る、植物工場を作る……うーん…好きな食べ物なら作ってみたい。ワインやカクテルを作れるブドウ、スイカやメロン、プチトマト以外は好き。炸裂する感覚が苦手で、切ってあったり大きなトマトなら大丈夫。

ちなみに、都道府県別の職業自給率(カロリーベース)は、1位は北海道196%、最下位は東京・大阪1%。北海道や茨木にはなかなか勝てない。茨木は農地も研究開発もあり、土地の利用が分散していて面白い。林業や農業はここから10~20年でITと組み合わせて新しい産業の形が生まれてくるだろう。

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“カロリーベースの食料自給率については、サンマ・サバ等の魚介類が不漁となり、米消費が減少した一方で、小麦の単収が増加したこと等により、対前年度から1ポイント上昇の38%となりました。”

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